MAPO法とは?医療・介護現場の腰痛リスクを数値で見える化

導入:介護職の腰痛問題と向き合うために
介護や看護の現場では、利用者の移乗介助や体位変換といった作業が日常的に行われており、職員の腰痛リスクが非常に高いことで知られています。こうした問題に対して、ヨーロッパを中心に活用されているのが「MAPO(Movement and Assistance of Patients in the Organization)法」です。本記事では、MAPO法の概要や活用方法、日本国内での導入事例、そして今後の課題について、科学的エビデンスに基づき詳しく解説します。
※図表の一部は、福岡産業保健総合支援センター作成の「医療保健業における腰痛リスクアセスメントツール MAPO index 日本語版の開発」から引用しています。
MAPO法とは?介護職のための“見える化”リスク評価手法
MAPO法は、イタリアの職業衛生研究機関ISPESL(現INAIL)が開発した、医療・介護現場における「患者の移動と介助に関する労働リスク評価手法」です。1999年の発表以来、ヨーロッパを中心に患者取扱いに伴う腰痛や筋骨格系障害(MSDs)の予防を目的として広く導入されてきました(Zuccarello et al., 2000)。

MAPO法が注目される理由
- 欧米ではISO/TR12296(2012年)として国際規格に準拠
- 複合的なリスク要因を「点」ではなく「面」で捉える評価法として評価
- リフトサーモメーターやPTAIなど複数の方法と併用が可能
主な評価要素
MAPO法では、以下のような複数の因子を評価し、それらをもとに「MAPOインデックス(MAPO指数)」という数値を算出します。
評価項目 | 内容例 |
---|---|
手作業移乗の頻度 | 1日に手動で移乗・体位変換する回数 |
利用者の自立度 | 自力歩行/一部介助/全介助 |
福祉用具の有無・使用状況 | スライディングシート、電動ベッド、リフトなどの整備状況 |
スタッフ体制 | 移乗時に2人以上のチーム介助が行えるか |
作業空間の広さと安全性 | ベッド周囲のスペース、通路幅、床材の滑りやすさなど |
これらの要素をスコア化し、加重平均によってMAPO指数が算出されます。この指数は、リスクの大きさを視覚的かつ客観的に表すものとして、施設内の比較や改善の進捗評価に活用されます。

MAPO指数の見方と活用方法
MAPO指数は、次のような基準に基づいてリスクの高低を判断します。
MAPO指数 | リスク評価 | 推奨対応 |
---|---|---|
0〜1.5 | 低リスク | 継続的な観察と現状維持 |
1.51〜5 | 中リスク | 優先順位をつけた改善が必要 |
5以上 | 高リスク | 速やかな対策導入が推奨される(機器導入、人員配置見直しなど) |
MAPO法の大きな特長は「現場のリスクを定量的に可視化できる点」です。数値に基づいて対策の優先順位を立てられるため、管理者視点での導入がしやすく、施設全体の安全衛生管理に貢献します。
活用例
- 高MAPO指数を記録した病棟に天井走行型リフトを導入
- 中リスク評価を受けたユニットでスライディングシートや電動ベッドを増設
- 年次評価の推移から介護技術研修の効果を検証
日本におけるMAPO法の導入事例と研究動向
日本では近年、MAPO法を応用した日本版評価指標「J-MAPO(Japanese MAPO Index)」の開発と妥当性検証が進んでいます。たとえば、2023年の研究(Fujikawa et al., 2023)では、J-MAPOの信頼性および日本の介護施設での有用性が報告されています。
MAPO指数の評価項目(J-MAPO)
評価因子 | 内容 | 値の範囲 |
---|---|---|
NC/PC | 全介助・部分介助の利用者数 | 実数 |
OP | 作業に従事する職員数 | 実数 |
LF | リフトやストレッチャーなど移乗介助機器の要因 | 0.5〜4.0 |
AF | スライディングボードなど福祉用具の要因 | 0.5〜1.0 |
WF | 車椅子の保有台数・整備状況など | 0.75〜2.0 |
EF | 浴室・トイレ・居室等の環境要因(MES値から導出) | 0.75〜1.5 |
TF | 職員の教育状況 | 0.75〜2.0 |

MAPO指数の計算式

このように複数の要素を組み合わせて数値化することで、単なる作業姿勢だけでは捉えきれない腰痛リスクを総合的に評価できます(福岡産業保健総合支援センター, 2021)。
国内での導入事例
施設名(仮) | MAPO導入前 | MAPO導入後 | 改善内容 |
某高齢者住宅 | 6.2 | 2.4 | リフト導入+スタッフ研修 |
某リハビリ病院 | 5.8 | 3.0 | 作業導線の見直し+用具追加 |
某特養ホーム | 7.1 | 4.5 | スライディングボード活用+チーム介助の強化 |
- 高齢者施設において、MAPO指数の導入前後で腰痛訴えが20%以上減少
- 移乗用リフト導入後、MAPO指数が6.2→2.4へ低下
- 職員満足度・定着率の向上に寄与したケースも
導入・運用上の主な課題
- 評価実施の手間や研修コスト:各項目の正確な評価には一定の教育が必要
- 用具導入の初期投資:リフトなどの福祉用具は高額でスペースも必要
- 継続的な評価体制の構築:定期的に評価・改善を行うPDCAサイクルの定着が求められる
科学的エビデンスに基づくMAPO法の有効性
海外ではMAPO法の有効性を支持する多くの研究報告があります。Zuccarelloら(2000)の研究では、MAPO指数が高い部署での腰痛発症率が有意に高いことが示されました。また、2019年の多施設共同研究(Guerra et al., 2019)でも、MAPO指数と腰痛の有病率に強い相関が確認されています。
日本でも今後、福祉機器との併用やAIによるリスク自動算出など、さらなる活用が期待されます。
結論:MAPO法で介護現場の“見える化”と腰痛予防を
MAPO法は、医療・介護職の腰痛リスクを可視化し、予防のための適切なアクションを導くための有効な手段です。科学的根拠に基づいた評価により、現場の安全性を向上させるだけでなく、働きやすい職場環境の整備にもつながります。今後は、J-MAPOの普及や、ICTとの融合による簡便化・効率化がさらに進むことが期待されます。

参考文献・情報源
- Zuccarello, M., et al. (2000). “MAPO Index: A method for assessing patient manual handling risk in hospital settings.” G Ital Med Lav Ergon.
- Guerra, F., et al. (2019). “Patient handling and musculoskeletal disorders: An Italian multicenter study applying the MAPO Index.” PubMed.
- Fujikawa, M., et al. (2023). “Development and validation of the Japanese version of the MAPO Index.” Journal of Occupational Health, 66(1): uiae016.
- INAIL – Italian National Institute for Insurance against Accidents at Work. https://www.inail.it/
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