【前半】物流作業におけるエルゴノミクスと社会的持続可能性

物流工場のエルゴノミクス的対策 2025年問題に揺れる物流業界の働き方改革_前編_立ち仕事のミカタ

1. はじめに:物流作業の課題と人間工学の重要性

物流業界では、商品のピッキングや荷役作業といった肉体労働が今なお不可欠な要素となっています。しかし、長時間の立ち仕事、前傾姿勢での重量物の取り扱い、不適切な作業環境は、作業者の健康に大きな影響を与えます。特に、腰痛や筋骨格系障害(Musculoskeletal Disorders: MSDs) は、物流従業員の労働能力を奪う深刻な問題です。

本記事では、最新の研究論文 「Logistics Work, Ergonomics and Social Sustainability」 を基に、物流業務における筋骨格系の負担を評価し、持続可能な労働環境を実現するためのエルゴノミクス(人間工学)的アプローチ について詳しく解説します。前半では、物流現場における作業負担の実態と、それを可視化するための測定手法について紹介します。


2. 物流業界における筋骨格系への負担とは?

物流業務において特に問題視されるのが、腰椎(L4/L5, L5/S1)にかかる負担 です。倉庫作業では、荷物の持ち運びや積み下ろしの際に前傾姿勢やねじり動作を伴うことが多く、これが腰痛や椎間板ヘルニアの原因となります。

物流業務で見られる代表的なリスク要因
作業内容負担要因健康リスク
ピッキング作業腰の前傾、重量物の持ち運び、反復動作腰痛、椎間板ヘルニア
フォークリフト運転長時間の座位、急なねじり動作腰部の過剰な負荷、坐骨神経痛
パレット積み下ろし低い位置での重量物の持ち上げ膝・腰への高負荷、疲労骨折
物流作業における観察された作業姿勢:OWAS分析による比較
source: Logistics Work, Ergonomics and Social Sustainability: Empirical Musculoskeletal System Strain Assessment in Retail Intralogistics

3. 作業負担の可視化:CUELAとOWASの測定システム

物流業務における身体的負担を科学的に評価するため、論文では CUELAOWAS という2つの測定システムを活用しています。

① CUELAシステム:動的な姿勢測定と筋骨格系負担の分析

CUELA(Computer-Based Measurement and Long-Term Analysis of Stresses upon the Musculoskeletal System) は、ドイツの労働安全衛生研究機関によって開発された、作業者の姿勢や動作をリアルタイムで測定する装置 です。

  • 圧力センサー付きインソール を使用し、作業中の動作(座る、立つ、歩くなど)を細かく記録
  • 50Hzのサンプリングレート で動作を捉え、ダイナミックな動きを正確に分析
  • 腰椎や関節への負担を数値化 し、どの作業姿勢がリスクを高めるかを特定
② OWASシステム:作業姿勢の分類とリスク評価

OWAS(Ovako Working Posture Analysis System) は、フィンランドで開発された作業姿勢評価手法で、特に単純作業における姿勢のリスク評価に適しています。

  • 作業中の姿勢を4つのカテゴリに分類(背中、腕、脚、負荷重量)
  • 姿勢ごとのリスクレベルを定量化 し、改善が必要な作業を特定
  • 作業ごとのOWASコード を作成し、身体負担が特に大きい作業をリストアップ

研究では、OWASを用いて4つの物流作業(A〜D)における作業姿勢の割合を分析 しました。

物流作業におけるOWAS評価と作業姿勢の割合
source: Logistics Work, Ergonomics and Social Sustainability: Empirical Musculoskeletal System Strain Assessment in Retail Intralogistics
作業の種類A. 飲料ピッキングB. フォークリフト運転C. 果物ピッキングD. パレット積み下ろし
前傾姿勢の割合16.1%1.8%8.9%4.9%
ねじり動作の割合8.5%6.0%6.2%2.8%
座位の割合0.2%99.6%0.0%76.1%
移動の割合22.9%0.0%58.6%13.0%

特に、飲料ピッキング(A)と果物ピッキング(C)では、前傾姿勢やねじり動作の割合が高く、腰に負担がかかっていることが分かります。
一方で、フォークリフト運転(B)は99.6%が座位 であり、長時間の座り作業による腰椎への負担が課題 となっています。

4. 研究の対象:ドイツのリテール倉庫での実証実験

本研究では、ドイツの大手食品リテール企業の倉庫 で働く60人の作業者 を対象に、筋骨格系負担の評価を実施しました。
調査対象の倉庫は 冷蔵エリアと常温エリア に分かれており、それぞれの環境でのピッキング作業やフォークリフト運転の負担を測定しました。

調査項目対象データ
倉庫作業者数60人
1日あたりのピッキング回数約10万回
計測対象の作業ピッキング、フォークリフト運転、パレット積み下ろし
測定期間1週間

調査の結果、特に A(飲料のピッキング作業)D(パレット積み下ろし作業)腰椎に大きな負担 がかかっていることが判明しました。


5. 研究結果(前半):物流作業における腰部負担の可視化

研究で得られたデータによると、腰椎の圧縮力は最大4.9kN に達し、これは40歳以上の作業者にとって危険なレベル であることが明らかになりました。

作業別の腰椎負担(L5/S1圧縮力)
作業内容平均圧縮力(kN)最大圧縮力(kN)
飲料ピッキング1.84.9
果物ピッキング1.53.0
フォークリフト運転0.82.5
パレット積み下ろし2.03.6

特に「飲料のピッキング作業」と「パレット積み下ろし」では、高い圧縮力が発生しやすく、長時間作業を続けることで慢性的な腰痛のリスクが高まる ことがわかりました。

異なる物流作業における腰椎の圧縮力
source: Logistics Work, Ergonomics and Social Sustainability: Empirical Musculoskeletal System Strain Assessment in Retail Intralogistics

6. まとめ:物流作業の負担を科学的に評価する意義

本研究の前半では、物流業務における作業負担の実態 を明らかにし、CUELAとOWASを活用した測定手法 について紹介しました。

この結果をもとに、エルゴノミクス的アプローチを取り入れた職場改善策 を講じることで、作業者の健康リスクを低減し、持続可能な労働環境を構築することが可能になります。

次回の後半では、具体的な改善策とエルゴノミクスを活用した負担軽減の取り組み について詳しく解説します。

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