ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)と抑うつリスク──SITH-1遺伝子に注目した最新研究の徹底解説

はじめに:ウイルスと脳の交錯──うつ病の新たなメカニズム
現代社会において、うつ病は最も身近で深刻なメンタルヘルス問題の一つです。職場や家庭、学校などあらゆる場面で影響を及ぼし、国内では生涯有病率が15%前後ともいわれています。従来、うつ病の原因は心理社会的ストレスやセロトニン不足、遺伝要因などが主とされてきました。
しかし、近年の研究により、感染症──とりわけ潜伏ウイルスによる脳機能への影響が注目され始めています。その最前線にあるのが、東京慈恵会医科大学・近藤一博教授らの研究グループによる「ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)」と「SITH-1遺伝子」に関する研究です。
本記事では、2020年に国際誌『iScience』に掲載されたこの論文をもとに、ウイルスが引き起こす神経炎症とうつ症状の関係、さらには臨床応用の可能性について、専門的かつわかりやすく解説します。
原著論文:Identification of a strong genetic risk factor for major depressive disorder in the human virome
プレスリリース:うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明(2024年2月13日 東京慈恵会医科大学)
研究の背景:HHV-6Bとは何か?
ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は、乳幼児期にほぼ100%の人が感染し、以後一生体内に潜伏するウイルスです。多くの場合は無症状ですが、ストレスや免疫低下により再活性化し、突発性発疹、けいれん、慢性疲労など様々な疾患との関連が疑われています。
近藤教授は、長年にわたり「疲労」と「免疫」「脳」の関係性を探求し続けてきました。その過程で、HHV-6Bが潜伏中に特定の遺伝子を発現させ、脳機能に影響を与える可能性が浮かび上がったのです。
論文の要点:SITH-1と抑うつの深い関係
研究チームは、うつ病患者と健常対照群の唾液や血液を比較し、HHV-6Bが潜伏感染中に発現する遺伝子「SITH-1」が、うつ病のバイオマーカーになり得ることを示しました。
主な発見:
- うつ病患者の約74%から、SITH-1と宿主タンパク質CAMLとの複合体に対する抗体が検出されました。
- 健常者ではその割合が24.4%にとどまり、オッズ比は12.2という極めて高い値でした。
- マウスを用いた実験では、SITH-1が嗅球内アストロサイトに作用し、神経細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導、さらに視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の活性化を通じて、うつ様行動を誘導しました。
この研究は、精神疾患の一部がウイルス感染という外因的要因から引き起こされる可能性を示唆する画期的な成果です。
ウイルスが脳に与える影響──SITH-1の作用機序
1. 嗅球を標的とするSITH-1
SITH-1は、嗅覚を司る嗅球に感染することで脳内に影響を与えます。この部位は、外部からのウイルス侵入経路にもなりうるとされており、感染後に神経炎症を引き起こすことが問題視されています。
2. アストロサイトを介した神経炎症
SITH-1はアストロサイトに作用し、カルシウムシグナリングを変化させ、炎症反応を誘導します。この過程で産生される炎症性サイトカインは、神経細胞の死を招き、脳の構造と機能に大きな影響を及ぼすと考えられます。
※アストロサイトとは、脳や脊髄に存在する「グリア細胞」と呼ばれる神経支持細胞の一種で、ニューロン(神経細胞)の働きを補助し、情報伝達や炎症反応の調整、血液脳関門の維持などに関与する重要な存在です。
※カルシウムシグナリングとは、カルシウムイオンの細胞内濃度変化を通じて、細胞の機能や活動を調整する重要な情報伝達機構のこと
3. HPA軸の活性化とうつ様行動
HPA軸とは、ストレス応答に関与するホルモン経路で、過剰な活性化が抑うつ症状と強く関連します。SITH-1による炎症がこのHPA軸を刺激することで、行動面での抑うつ症状が出現するという仮説が、マウスモデルで実証されています。
臨床応用の展望:SITH-1は“うつ病のバイオマーカー”になり得るか?
本研究は、以下の点で臨床応用が期待されています:
1. 診断精度の向上
唾液または血液からSITH-1抗体を測定することで、うつ病リスクを客観的にスクリーニングする手法が現実味を帯びてきました。特に、初期症状の少ない抑うつ状態を見逃さないツールとしての可能性があります。
2. 予防医療への応用
SITH-1の抗体価が上昇した段階で、ストレス軽減や生活改善を行うことで、うつ症状の発症を予防できる可能性も指摘されています。
3. 新たな治療戦略
従来のセロトニン系抗うつ薬に加えて、抗ウイルス薬や免疫制御療法の導入が視野に入ることで、より多面的なうつ病治療が可能になると期待されています。

社会的意義:メンタルヘルスと感染症の統合的理解
この研究のインパクトは、単なる一論文にとどまりません。うつ病という極めて身近な疾患に、ウイルスという視点を取り入れることで、
- 医療現場での新たな診断・治療基盤の創出
- 精神疾患への社会的スティグマ(偏見)の軽減
- 感染症対策とメンタルヘルスケアの連携強化
など、広範な影響を与える可能性を秘めています。

論文情報(参考)
- タイトル:Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating HPA Axis during Latent Phase of Infection
- 著者:Nobuyuki Kobayashi, Naomi Oka, Mayumi Takahashi, et al., including Kazuhiro Kondo
- 雑誌名:iScience(Cell Press)
- 公開日:2020年6月26日
- DOI:10.1016/j.isci.2020.101187
- PubMed:PMID: 32534440


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