航空整備士の職業病 作業関連筋骨格系疾患(WMSD)の実態と対策

はじめに
航空整備士は、高度な専門技術を要する仕事でありながら、身体的な負担が大きい職業の一つです。特に、作業関連筋骨格系疾患(Work-related Musculoskeletal Disorders: WMSDs)は、整備士の健康を脅かす大きな課題となっています。本記事では、マレーシアの**王立マレーシア空軍(RMAF)**に勤務する整備士を対象とした研究をもとに、WMSDsの発生状況やリスク要因、予防策について詳しく解説します。

1. 航空整備士のWMSDsの発生状況
研究では、40名のRMAF航空整備士を対象に調査を行い、過去12か月間におけるWMSDsの発生率を分析しました。その結果、最も多くの整備士が痛みを訴えた部位は以下の通りです。
部位 | WMSDs発生率(過去12か月) |
---|---|
腰部(下背部) | 77.5% |
首 | 70.0% |
左肩 | 52.5% |
上背部 | 47.5% |
両膝 | 45.0% |
手首 | 42.5% |
さらに、直近1週間の痛みの発生率においても、首(45.0%)、右肩(37.5%)、**腰部(25.0%)**といった部位の負担が特に大きいことが分かりました。

Prevalence of Work-related Musculoskeletal Disorders
(WMSDs) Among Aviation Maintenance Personnel in Malaysia
2. WMSDsの主なリスク要因
研究では、WMSDsの発生に影響を与えるリスク要因として、年齢と勤続年数が統計的に有意な関連を示しました。
- 年齢が高いほど、WMSDsの発生率が増加
- 勤続年数が長いほど、痛みを感じるリスクが高まる
- 整備作業の種類によって、負荷のかかる部位が異なる
- エンジンベイ作業:背中や肩の負担が大きい
- 構造検査作業:首や膝の負担が大きい
また、作業中の姿勢(前屈み・無理な体勢)や、反復的な動作(重量物の持ち上げ、工具の使用など)が、WMSDsの発生に強く影響していることも確認されました。

Prevalence of Work-related Musculoskeletal Disorders
(WMSDs) Among Aviation Maintenance Personnel in Malaysia
3. WMSDsの予防策
WMSDsを防ぐためには、エルゴノミクス(人間工学)に基づく職場環境の改善と個々の従業員の対策が必要です。
(1) 物理的対策
✅ 作業環境の見直し
- 工具や部品の配置を最適化し、無理な姿勢での作業を減らす
- 作業台やシートの高さを調整し、腰や肩への負担を軽減
- 軽量化された作業用具を導入し、手首や腕の負担を減らす
✅ 補助機器の活用
- アシストスーツの導入(特に長時間の前傾姿勢が必要な作業向け)
- 腰部サポートベルトや膝パッドの使用
- 作業中の姿勢をモニタリングするウェアラブルデバイスの活用
(2) 個々の対策
✅ ストレッチ・筋力トレーニング
- 作業前後のストレッチを義務化し、筋肉の疲労を軽減
- 首・肩・腰の強化トレーニングを日常的に取り入れる
- 休憩時間に簡単な体操を実施し、血行を促進
✅ 定期的な健康診断
- 早期に症状を発見し、重症化を防ぐ
- 作業者ごとに適した作業負荷を管理
✅ ワークシフトの改善
- 長時間の連続作業を避ける
- 定期的なポジション変更で、特定の筋肉にかかる負担を分散
4. 研究結果の活用と今後の展望
本研究から、航空整備士が腰部・首・肩を中心にWMSDsのリスクが高いことが明らかになりました。今後、企業や軍事機関では、以下のような施策を強化することで、WMSDsの発生を大幅に抑制できると考えられます。
🔹 エルゴノミクスの導入強化
🔹 従業員の健康管理プログラムの拡充
🔹 ストレッチやトレーニングの定期実施
🔹 労働時間と作業姿勢の見直し
特に、エルゴノミクスに基づいた補助機器の導入は、整備士の負担軽減に即効性のある対策として有効です。企業としては、労働環境を改善することで、従業員の健康維持だけでなく、生産性向上にもつながると考えられます。
まとめ
航空整備士におけるWMSDsは、腰・首・肩の負担が大きく、長時間の作業がリスクを高めることが判明しました。適切なエルゴノミクスの導入や健康管理の強化により、WMSDsの予防が可能となります。本記事で紹介した予防策を取り入れ、安全かつ快適な作業環境の実現を目指しましょう。
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