開発ストーリー
アルケリスが誕生した
開発ストーリー
きっかけは「医師の負担を軽減できないか」という相談から
藤澤秀行は株式会社ニットーの二代目社長。
ニットーは創業 56 年の開発から量産までの一貫生産を得意する金属加工をメインの中小製造業です。
ある日、藤澤は千葉大学フロンティア医工学センター(当時)の川平先生(医学博士) と中村先生(工学博士)に出会うことになりました。両名からの相談は「長時間立った姿勢で手術をする医師の負担を軽減できないか」というもの。技術屋としての藤澤と各分野でのエキスパートである先生方とは、すぐに意気投合して話は盛り上がり、その場でアイデアも生まれました。
この理由は、今思い返してみると、そこにいるみんなが、日常的に大変な医師の助けになれば!という共通の熱い想いを抱いていたからです。
開発は未知の領域 そこに助けが
実際に開発を進めるにあたり、多くの不安もありました。
製品開発において、一番大切なことは開発者が作りたいものを作るのではなく、使う方の身になって開発すること。
ところが、当社にとって医療分野はまったく未知の領域で、経験も全くなかったです。
アイディア出しでは盛り上がったものの、途方に暮れた瞬間でした。
そこに助けが。
悩みをご相談いただいた川平先生は内視鏡外科専門医として自ら実際に手術も手かげていたので、手術現場の現状を医師の視点で詳細に知ることができたのです。
こうして、一般的な椅子を置くことができない手術現場で、「身につけて歩ける椅子」ならばジャマにならずに手術する医師を支えることができるという川平先生の発案をもとに、ニットーの一貫生産体制を活かし、まずはすぐに試作1号機を作り上げることができました。
この試作機には「歩ける椅子」という機能をわかりやすく伝えられるように「アルケリス」とネーミングしました。
機械っぽい製品から、より人に寄り添った製品開発へ
アルケリスの試作機を少しずつ改良していく中、当社の中でも製品の可能性を感じはじめていました。
旧知のデザイナー西村ひろあき氏に声をかけ、開発を加速すべく、プロジェクトに参画してもらうことになりました。
西村氏は元々パナソニックでプロダクトデザインに携わった後、独立し積極的に中小製造業との連携もしており、必ずアルケリスに新しい息吹を吹き込んでくれると確信していました。
その確信どおり、西村氏から提案されたデザインは、これまで開発してきた機能を引き継ぎながらも、圧倒的魅力を持つアルケリスの新しい姿でした。
エルゴノミクスデザイン(人間工学的デザイン)の考え方を取り入れた新生アルケリスの誕生です。
テレビ視聴者から気づかされたアルケリスの可能性
この頃からテレビやラジオなどさまざまメディアに開発中のアルケリスが取り上げられました。
元々の開発目的は、手術中の医師の立ち姿勢を楽にするということ。
しかしながらメディアで紹介されるや否や、他分野の立ち仕事で使いたいとの問い合わせが殺到しました。
この事実は工場作業者、警備員、農業、美容師、料理人など、あらゆる職業の方々が立ち仕事によるつらさで困っていることの裏返しでした。
アルケリスは絶対に市場に受け入れられる!
アルケリスにより多くの方のつらいを楽にできる!
製品化に向けより一層気合が入った瞬間でした。
チームに襲いかかる開発困難の壁・壁・壁
当社のようにさまざまな開発を行ってきたプロであっても、アルケリス開発は今までまったく経験したことのない難しさを秘めていました。
この困難の壁が次々に襲いかかってきたのです。
・人の体型が千差万別である
・フィット感は人それぞれによる感覚的なことなので、計測することができない
・人の関節の動きが複雑で、その人の動きをさまたげない関節構造の構築が難しい
・自分が装着して良いと感じるものでも、他の人に装着してもらうと違和感を感じてしまう
などなど。
つまり高性能な計測装置や解析ソフトを駆使しても解決できるものではなかったのです。
解決に向かう道は、試作品を作っては、より多くの方に装着していただき、そのフィードバックを開発に活かすというもの。
この方法で製品の質を少しずつ高めてくしかありませんでした。
3 歩進んで 2 歩下がる開発は、ある意味で気の遠くなる作業に感じられ、永遠に製品化ができないのでは、と深く落ち込むこともありました。
最終形へ 世界から立ち仕事のつらさをなくすために
八方塞がりの状況が続く中でも、全く意気消沈しなかったのがアルケリスに関わってくれた多くのメンバー達でした。
ニットーでアルケリスに関わっていない製造現場でも打開策のアイデアをあっという間に形にしてくれたり、同じ製造業の方々からは機構や加工のアイデアもいただきました。
また、横浜市職員や横浜企業経営支援財団の方々も親身になってさまざまな形での支援やモニター調査などのご協力もいただきました。
こうしてアルケリスは最終的には試作 14 号機まで製作し、トータル 1000 人以上の方に装着していただき製品が完成したのです。
2020年2月にはニットーからアルケリス事業部をスピンオフし、スピード感を持ってアルケリス普及を進めるために新たにアルケリス株式会社を設立しました。
様々な困難を乗り越えて製品化したアルケリスは、今では医療分野ばかりでなく、工場作業の立ち仕事でも使われはじめるようになりました。
海外からも続々とお問い合わせが舞い込んでおります。
現代社会において、人手不足や高齢化が大きな社会課題です。また、働き方改革や新型コロナウイルスの影響もあり、今までの働き方の常識にとらわれない改革や改善が進んでいきます。
アルケリスは今後も更なる進化に向けて開発し続け、世界中の人々がいつまでも健康に人生を過ごせる社会の実現に向けて進んでまいります。
世界から立ち仕事のつらさをなくすために。