世界各国の労働安全衛生(OHS)日本は遅れてる?労働安全衛生の各国のガイドラインを徹底解説

世界各国の労働安全衛生(OHS)日本は遅れてる?進んでる?労働安全衛生の各国のガイドラインを徹底解説 立ち仕事のミカタ
目次

導入:グローバルな職場環境で求められる安全衛生への視点

ビジネスのグローバル化が進展する現在、企業は国内の労働安全衛生(Occupational Health and Safety:OHS)対策にとどまらず、世界各国のOHS基準や規制にも目を向ける必要があります。多様な文化、労働習慣、法規制が存在する中で、各国がどのように労働者の安全と健康を守っているのかを理解することは、海外拠点の展開や多国籍労働者の受け入れにおいて不可欠です。

この記事では、日本を含む主要5カ国・地域(アメリカ、EU(ドイツ)、イギリス、オーストラリア)のOHS制度について、法制度の仕組み、統括する行政機関、特徴的な取り組み、ISOとの関連性などを多角的に解説します。さらに、制度の背景や各国で注目されるトピック、国際的な協調の流れについても深掘りし、企業のOHS戦略構築に役立つ情報を提供します。


日本:法制度に基づく体系的なOHS管理

日本の労働安全衛生制度は、厚生労働省が中心となって整備されており、労働基準法および労働安全衛生法に基づく詳細な規定があります。企業の規模や業種に応じて、衛生管理者、安全管理者、産業医の選任が義務付けられています。また、労働者数50人以上の事業所では、労働安全衛生委員会の設置も必要とされており、労使協調による職場の安全管理が推進されています。

さらに、職場のメンタルヘルスに対応する「ストレスチェック制度」が2015年に導入され、年間1回のストレスチェックが法的義務となりました。これは、心理的負担を早期に把握し、必要な対応を講じることを目的としています。

日本では近年、建設業・運輸業・介護業といった身体的負担の大きい職種における労働災害が問題視されており、これらの業界ではOHS対策のさらなる強化が求められています。また、外国人技能実習生や非正規労働者といった多様な働き手に対する安全教育の整備も重要な課題です。


アメリカ:法と罰則による厳格な規制体制

アメリカ合衆国労働省
アメリカ合衆国労働省(Wikipediaより引用)

アメリカでは、連邦労働省の中にあるOSHA(Occupational Safety and Health Administration)が中心となって、労働安全衛生の監督と執行を行っています。OSHAは、建設業、製造業、医療・福祉など、各業界において非常に詳細な技術基準や作業マニュアルを定めており、違反があった場合には多額の罰金や業務停止命令が科されることもあります。

1. “Right to a Safe and Healthful Workplace”

  • OSHAのスローガンの一つで、「安全で健康的な職場で働く権利」は、全ての労働者に保障されるべきという基本思想。
  • 労働者の人権と尊厳を守るという人道的な立場から、OHSを社会正義の一環として位置付けています。

2. Prevention through Design(PtD)

  • 危険やリスクは「起きた後に対応する」のではなく、「設計段階から排除する」ことを目指す考え方。
  • 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が推進しており、建設、製造、研究施設の安全設計に反映されています。

3. Hazard-Based Regulation(危険に基づく規制)

  • OSHAは「結果」よりも「リスクの存在」自体に着目し、危険性を管理・制御することを重視。
  • たとえば、有害化学物質の取り扱い、転倒・墜落防止などは事前予防が前提となります。

4. Enforcement with Accountability(厳格な執行と説明責任)

  • 違反に対する罰則が重く、企業には高い説明責任と記録管理義務が課される。
  • OSHAの査察官による抜き打ち検査や、市民・労働者による匿名通報制度も活発。

5. Worker Participation(労働者の参画)

  • OHSは事業者だけの責任ではなく、労働者自身も安全衛生活動に関与するべきという方針。
  • 労働者がリスクを報告・改善提案しやすい環境づくりが奨励されています。

モデルとして活用されている制度・枠組み

モデル名内容特徴的な活用例
General Duty Clause(一般義務条項)OSH法の中核条項。すべての事業者は「既知の危険」から労働者を守る義務がある。具体的な規定がない場合でも、リスクへの対処を要求される柔軟な規定。
Voluntary Protection Programs(VPP)優良企業が自主的に安全衛生活動を強化する制度。OSHAが認定することでブランド力や人材定着に寄与。
Total Worker Health(NIOSH)健康促進と安全対策を統合した包括的な労働者支援戦略。身体・精神の両面からの健康支援。ウェルビーイング戦略と親和性あり。

アメリカでは、予防重視・権利重視・実効性重視の三本柱でOHSが構築されています。また、民間主導でのベストプラクティス共有や、業界団体との協力も盛んです。

特徴的なのは、内部告発(Whistleblower)を保護する制度が法律によって整備されており、労働者が自らの安全に関する懸念を通報することが促進されている点です。また、労働者自身が安全衛生に関する訓練を受けることが求められ、教育機関やNPOが提供するOSHA認定のトレーニングプログラムも普及しています。

近年では、COVID-19パンデミックへの対応として、一時的なガイドラインの発行や在宅勤務時の健康支援策の策定など、新たな働き方に対応した柔軟な運用が見られます。


EU:欧州労働安全衛生枠組み指令(89/391/EEC)

EU域内では、「欧州労働安全衛生枠組み指令(89/391/EEC)」に基づき、加盟各国が共通のOHS基準を持つことが求められています。

欧州労働安全衛生機関
欧州労働安全衛生機関(公式HPより引用)

1. “A safe and healthy workplace is a productive workplace”

  • EU-OSHA(欧州安全衛生機関)のメッセージであり、「安全で健康な職場こそが、生産性の高い職場」という考え方。
  • 安全衛生はコストではなく「投資」と捉えられ、企業の持続可能性の根幹とされています。

2. 予防原則(The Principle of Prevention)

  • 危険や健康被害が生じる前に、「予測して防ぐ」ことが義務とされる。
  • OHSはリアクティブ(反応型)ではなくプロアクティブ(先手型)であるべきという強い哲学に基づいています。

3. Hierarchy of Prevention(リスク対処の優先順位)

  • EU指令では、危険の除去 > リスクの代替 > 技術的・組織的対策 > 個人用保護具(PPE)という順序で対策をとるべきとされています。
  • これは「危険な作業を前提としない」考え方に直結します。

4. Participatory Approach(参加型アプローチ)

  • 労働者がOHSのあらゆる段階(評価・対策・改善)に関与することが奨励されている。
  • 職場の代表者や労働組合によるリスク評価や管理策への発言権が保障されている。

5. 包括的健康観(Holistic Health Approach)

  • 身体的安全だけでなく、心理的健康・ワークライフバランス・職場の尊厳まで含めた広範な視点。
  • 「職業性ストレス」「バーンアウト」「ハラスメント」などもOHSの一部とされています。

EUにおける政策モデル・法的枠組み

モデル・仕組み内容特徴
EU指令(Directive 89/391/EEC)通称「枠組み指令」。すべての加盟国が国内法に取り入れる義務がある基本的なOHS指令。予防、労働者教育、リスク評価、労使協議が中核。
EU-OSHA(欧州安全衛生機関)欧州委員会の下部機関。OHS政策の調査、キャンペーン、ベストプラクティスの収集を担う。年次テーマに沿って全EUで啓発活動を実施。
OIRA(Online Interactive Risk Assessment)中小企業向けの無料オンラインリスクアセスメントツール。EU-OSHA提供。特に中小零細企業のOHS管理を支援する仕組み。
ビジョンゼロ(Vision Zero)労働災害・死亡ゼロを目指す欧州全体の方針。ILOや国際団体と連携。EU域内では政策だけでなく文化として浸透しつつある。

EUらしいOHSの価値観

  • 連帯・公平・包摂といったEU全体の価値観がOHSにも反映されており、「弱い立場にある労働者を守る」ことに重点が置かれています。
  • 高齢労働者、若年労働者、女性、障害者、移民労働者などへの特別な配慮も制度化されています。
  • また、デジタル化・AI・リモートワークといった新しい働き方への対応も迅速で、2023年からは「健康的なデジタル職場環境の確保」が政策課題として位置付けられています。

その中でもドイツは、労働安全衛生の分野で先進的な取り組みを進めており、リスクアセスメントの厳格な実施や、科学的根拠に基づく予防措置が特徴です。

ドイツでは、「労働保護法」や「産業安全法」などの法体系に加えて、企業単位での「安全衛生委員会」や「従業員代表制度(Betriebsrat)」が機能しており、労使の協調を基盤としたリスクマネジメントが進められています。

また、連邦労働安全衛生局(BAuA)では、ナノマテリアルやAI導入による労働変化など、新たなリスクに対応するための研究や政策提言も積極的に行っています。


イギリス:Health and Safety at Work Act

イギリスのOHS制度は、1974年制定の「Health and Safety at Work Act」を基盤とし、事業者が合理的に実施可能な範囲での安全対策を講じることを求める“合理性原則”に立脚しています。これは事業規模やリスクレベルに応じて柔軟に対応できる一方で、事業者の高い自律性と倫理観が求められる制度です。

HSE(Health and Safety Executive)は、政府機関でありながらも非常に実務的な支援機能を持ち、業種別ガイドラインの発行、研修プログラム、事故調査の実施などを包括的に担っています。

さらに、建設現場や食品加工業など、高リスク分野では定期的な監査や検査が実施されており、特に若年労働者や障害者の就労支援と連動したOHS施策が注目されています。心理的健康(ウェルビーイング)も近年の重要テーマであり、職場の幸福度を高める戦略的施策が数多く提案されています。


オーストラリア:Model WHS Act

オーストラリアでは、各州が独自の労働安全衛生法を持つ連邦制でありながら、Safe Work Australiaが策定した「Model WHS Act」を基盤に、全国的な整合性を確保しています。

この制度の特徴は、”Safety”(安全)だけでなく、”Health”(健康)への包括的配慮がなされている点であり、職場における身体的・心理的健康への影響が重視されています。PCBU(Person Conducting a Business or Undertaking)という概念により、法人のみならず個人経営者や契約業者にもOHS責任が課せられています。

また、精神的ハラスメントや性的嫌がらせへの対応が法制度の中に明文化されており、予防教育と通報体制の整備が進んでいます。建設、林業、鉱山といった危険性の高い業界では、ウェアラブル機器やAIモニタリングを活用した労働環境のリアルタイム管理が試験導入されるなど、革新的な取り組みも進んでいます。


ISO45001と国際的整合性の流れ

ISO45001は、2018年に発行された労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格で、国境を越えて共通の安全文化を促進するフレームワークです。

✅ ISO 45001とは?基本概要

ISO 45001は、労働安全衛生マネジメントシステム(Occupational Health and Safety Management Systems:OHSMS)に関する国際規格で、2018年に国際標準化機構(ISO)によって発行されました。

  • 正式名称:ISO 45001:2018
  • 対象:全業種・全規模の組織(企業、団体、自治体など)
  • 目的:労働災害・健康障害の予防、職場の安全性向上、法令順守、継続的改善

🌍 ISO 45001と労働安全衛生の関連性

1. 世界共通のOHS基準を提供する枠組み

ISO 45001は、国や業界ごとに異なるOHS規制を「統一された管理体制の下で運用」できるよう設計されています。たとえば、アメリカのOSHA、日本の労働安全衛生法、EUの枠組み指令など、各国法規との整合性を保ちながら、共通のフレームワークで運用可能です。

2. OHSの取り組みを「マネジメントシステム」に格上げ

従来のOHSは「個別の安全対策」「一過性の指導」に留まることもありましたが、ISO 45001ではそれを組織の中核的な仕組みとして位置付けています。リスクアセスメント・内部監査・是正処置といったPDCAサイクルを重視します。

3. 労働者の参画を明文化

ISO 45001の特徴の一つが「労働者の参画(Worker Participation)」の重視です。計画段階からリスク評価、是正策の検討、改善まで、労働者の声が反映される仕組みが求められています。

4. 上位規格との整合性(ISO共通構造)

ISO 45001は、ISO 9001(品質)、ISO 14001(環境)と同じ**「HLS(ハイレベルストラクチャー)」**に基づいており、統合マネジメントシステムの一部として導入しやすくなっています。

💬 補足:ISO 45001は法令の代替ではない

ISO 45001は「自社のOHS体制を強化する枠組み」であり、各国の労働法や安全衛生規制を免除するものではありません。 むしろ、法令順守を含んだ“最低限の責任”として組み込むことが求められています。


📌 まとめ

ISO 45001は、労働安全衛生を**「仕組みとして回し続ける」ための国際共通語**です。単なるマニュアル整備ではなく、企業全体で「労働者の安全と健康を守る文化」を築くための土台を提供します。


比較表:各国のOHS制度の特徴

国・地域管轄機関主要法律・規制特徴的な施策・視点
日本厚生労働省労働安全衛生法衛生管理者制度、ストレスチェック制度、高齢者対応
アメリカOSHA(労働省)OSH Act(1970年)詳細規制、厳罰、内部告発保護、業種別基準
ドイツ(EU)BAuA(連邦労働安全衛生局)EU枠組み指令、国家法労使協議、科学的リスク評価、精神的負荷対策
イギリスHSEHealth and Safety at Work Act自主管理、教育重視、合理性原則、技術ガイドによる運用
オーストラリアSafe Work AustraliaModel WHS Act(州制度あり)健康重視、PCBU概念、精神衛生への制度化

まとめ:国際的なOHS視点で職場をアップデートする

安全で健康的な職場環境の整備は、企業の持続可能性と従業員の満足度向上に直結します。日本の制度をベースにしながらも、海外の先進的な制度や考え方を積極的に取り入れることで、より実効性の高いOHS体制を構築できます。特に、多国籍人材の受け入れや海外拠点との連携が進む企業では、国際基準への準拠や柔軟な制度運用が成功のカギとなります。

立ち姿勢の負担軽減
「スタンディングレスト」

という新発想!

スタビハーフは、長時間の立ち仕事による足や腰への負担を軽減するために開発されたスタンディングレストです。スネやヒザをやさしく支えることで体重を分散し、足裏への負荷を大幅に軽減。作業中の疲労を和らげ、快適な姿勢をサポートします。

立ち作業の負担軽減デバイス

アルケリスは立ち姿勢の負荷軽減デバイスを販売中です。職場環境に合わせて、疲労軽減ジェルマットスタビ ハーフスタビフルから選ぶことができます。立ち仕事の身体疲労を軽減し、働く人に選ばれる職場づくりをサポートします。

製品写真(スタビハーフ)

立ち仕事の椅子「スタビハーフ」に座って仕事をする前立ち仕事の椅子「スタビハーフ」に座って仕事をする様子

身体負荷を軽減する

立ち姿勢では体重負荷が100%足裏に集中して、足や腰に負担がかかります。スタビハーフは体重を分散して支えるため、足裏への負荷を最大33%軽減することができます。

立ち姿勢では体重負荷が100%足裏に集中して、足や腰に負担がかかります。スタビハーフは体重を分散して支えるため、足裏への負荷を最大33%軽減することができます。

負荷軽減の検証データ

実証実験において、スタビハーフによる体重分散効果が示されました。

立ち姿勢とスタビハーフ使用時における体にかかる荷重を、圧力分布センサを用いて計測したところ、スタビハーフの使用により足裏の荷重が最大30%程度軽減することが明らかになりました。

スネ部のロールクッションが体重の一部を優しく支えることで、足裏の荷重が軽減していることがデータから示されました。

スタビハーフの負荷軽減効果検証実験の様子。立ち姿勢とスタビハーフ使用時における体にかかる荷重を、圧力分布センサを用いて計測したところ、スタビハーフの使用により足裏の荷重が最大30%程度軽減することが明らかになりました。

関連記事

立ち仕事のミカタ_banner
Click to Share!
目次