アメリカ国立労働安全衛生研究所が調査 自動車製造業における押し・引き作業の負担と筋骨格系障害のリスク

はじめに
労働安全衛生の観点から、自動車製造業の現場では重量物の押し・引き作業による筋骨格系障害(MSD: Musculoskeletal Disorders)が重要な課題となっています。本記事では、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が行った自動車メーカーでの押し・引き作業に関する調査をもとに、現場でのリスク要因とその対策について詳しく解説します。
本調査では、**パノラミックルーフ(大型ガラスルーフ)を運搬するためのドリー(台車)**の操作に焦点を当て、労働者の負担軽減と作業環境の改善を目的として実施されました。
調査の概要
調査は約8,000人の従業員が働く自動車製造工場で実施されました。特に、パノラミックルーフの運搬を担当する45名の従業員を対象とし、以下の点について評価が行われました。
- ドリーの押し・引きに必要な力の測定
- 作業環境および姿勢の観察
- 作業者の健康状態(筋骨格系障害の症状)
- 作業ストレスの評価

調査結果:作業環境の課題
1. ドリーの押し・引きに必要な力
✅ 新型アルミ製ドリーの導入で作業負担を48%軽減
→ スチール製ドリーと比較し、押し・引きの力が半分以下に。
✅ スチール製ドリーでは許容範囲を超える可能性あり
→ 押し・引きの必要力が44ポンド(約20kg)を超える状況も確認され、特に女性作業者にとって負担が大きい。
✅ ドリーの手持ち部分の高さが非推奨範囲
→ ハンドルの高さが平均50インチ(約127cm)で、肩に負担がかかりやすい。
📌 図表1:スチール製ドリーの押し・引き力比較

解説:従来のスチール製ドリー(左)と新型アルミ製ドリー(右)を比較した結果、アルミ製ドリーでは押し・引きにかかる負担が大幅に軽減されました。
2. 労働者の健康への影響
調査に参加した42名の従業員のうち、22名(52%)が仕事に関連した筋骨格系障害(MSD)の痛みを報告。特に影響が大きかった部位は以下の通りです。
痛みの部位 | 報告者数(割合) |
---|---|
肩 | 14名(33%) |
腰 | 11名(26%) |
首 | 6名(14%) |
手 | 5名(12%) |
✅ 特に「ドリー操作」に関連する痛みとして、13名(31%)が報告。
✅ 92%の作業者が「繰り返し作業」が痛みの原因になったと回答。
労働安全衛生担当者が取るべき対策
調査結果を踏まえ、作業負担を軽減し、筋骨格系障害を予防するための改善策を以下にまとめました。
1. ドリーの設計改善
- スチール製からアルミ製ドリーへ変更
→ 軽量化により押し・引きの負担を48%削減。 - 適切な高さのハンドルを設置
→ **36~45インチ(約91~114cm)**の範囲で設置し、肩への負担を軽減。 - エアアシスト機能の活用
→ ドリーの動きを補助するエアタンクを活用し、力の負担を軽減。
2. 作業方法の見直し
- 押し作業を推奨(引くよりも負担が軽減)。
- 作業員のローテーションを実施し、同じ動作の繰り返しを防ぐ。
- 作業エリアの動線整理(無駄な動きを減らし、作業効率を向上)。
3. 労働者の健康管理と教育
- エルゴノミクス(人間工学)研修の実施
→ 適切な姿勢・動作を学ぶことで、負担を軽減。 - 作業員のフィードバックを活用
→ 現場の声を反映した改善を行い、作業環境を最適化。
まとめ:労働安全衛生担当者への提言
本調査の結果、自動車製造業における押し・引き作業には、筋骨格系障害のリスクが潜んでいることが明らかになりました。労働安全衛生担当者は、次のアクションを取ることで、作業者の安全と健康を守ることができます。
✅ 作業環境の改善(アルミ製ドリーの導入、適切なハンドル設計)
✅ 作業負担の軽減(エアアシスト活用、押し作業の推奨)
✅ 作業員の健康管理と教育(エルゴノミクス研修、フィードバックの活用)
安全な作業環境を整えることで、労働者の健康維持だけでなく、作業効率の向上や企業の生産性向上にもつながります。今こそ、労働安全の取り組みを強化しましょう!
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